都市によって異なるアプローチが必要
【参考資料】
経営コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)は、2019年5月に、電動キックボードのシェアリングサービスの世界市場規模を予測し、収益性について検討したレポート「The Promise and Pitfalls of E-Scooter Sharing」を発表しました。また、2020年1月には、その収益性の調査を更新し、普及条件や普及への道筋を考察した「How E-Scooters Can Win a Place in Urban Transport」を発表しています。2つのレポートの内容を以下にご紹介します。
なぜ今、電動キックボードのシェアリングなのか。世界市場規模は2025年に400億~500億ドルへ
電動キックボードのシェアリングは、公共交通機関やシェアリングサービスなどの多様な移動手段を一つにまとめ、予約や決済を一本化するサービス「MaaS(Mobility as a Service)」の一角として注目され「ラストワンマイル」と呼ばれる0.5~4km(徒歩5~45分)の移動に適したモビリティです。アメリカやヨーロッパを中心に急速な発展を遂げており、世界の市場規模は2025年に400億~500億ドルに上るとみられます。また、主要企業には数億ドルの資金が集まっており、このビジネスの勢いが見てとれます(図表1)。
高い潜在性が見込まれる一方、収益性は不透明
電動キックボードのシェアリングサービスのメリットは、①1回の乗車料金が約4ドルと低価格で、②車の交通量を減らすことができ、渋滞緩和につながる、③駐車場を探す必要もなく、④童心に戻る楽しみを与えてくれる、などがあります。また、電動キックボードはカーシェアなどのほかのモビリティシェアリングサービスと比べてより短い距離に利用され(図表2)、よりプライベートな移動手段であるため、ほかのシェアリングサービスの需要を奪うことなく拡大していくと考えられます。
一方で、1回の乗車料金と車体の耐久性を考慮すると、収益性は不透明とも言えます。車体の耐久性が向上していることから、収益性も改善しつつありますが、長期にわたって収益性を確保し、持続可能な事業とするには、各都市とマイクロモビリティの関係を幅広い視点で検討、反映してビジネスモデルを構築することが必要です。
普及の条件は「人口密度」「インフラ」「天候」「若年層の人口」
各都市での展開余地を推計するため、電動キックボードのシェアリングサービスの普及条件を考察しました。次のような条件が考えられます。
以上にもとづき、アメリカとヨーロッパの都市を7つのタイプに分けました。
電動キックボードシェアリング、普及の可能性が高い都市、低い都市は:7つのタイプ
都市の例 | 特徴 | |
巨大都市 | パリ、マドリード、シカゴ | 350万人以上の人口を擁する、巨大都市。十分な人口密度があり、自転車用のインフラも整っている |
車中心:大都市 | ロサンゼルス、ダラス、アトランタ | アメリカの大きな都市。高低差は少なく平らな土地が広がっており、主な交通手段は車である |
車中心:中規模都市 | サンアントニオ、インディアナポリス、ナッシュビル | アメリカの中規模の都市。車が有力な移動手段である |
寒冷/多雨都市 | ブリュッセル、デンバー、ポートランド、オレゴン | 冬が長い、または天候が厳しい中規模の都市 |
キックボードパラダイス | オースティン、リスボン、ニース、サンディエゴ | 中規模の都市で、車は交通手段の中心ではなく、気候が穏やか。良い条件がそろっている |
学園都市 | バージニア州シャーロッツビル、ミシガン州アナーバー、ドイツのミュンスター | 大学があり、学生たちが多く住んでいる小さな街 |
将来有望な郊外の町 | ― | 電動キックボードの潜在需要を持つ、多くの小さな地方自治体 |
この分析の結果、約750の都市で電動キックボードシェアリングサービスの需要拡大の可能性があることが分かりました。これは、2019年11月時点の展開都市数、350都市という数字と比べると2倍以上であり、今後大きな成長が見込まれることを示しています。
収益性を向上させるとともに、環境と安全性への配慮が必要
電動キックボードのシェアリングサービスを提供する企業は、勝ち残るために、市場ごと、都市ごとに異なるアプローチを取る必要があります。都市の行政と密接に協力しながら、ビジネスモデルを改良しなければなりません。
バッテリーの持ち時間の改善などにより、1乗車当たりの収益は向上しつつありますが、引き続き、製品の革新とメンテナンスにより、車両の寿命を延ばし、収益性を改善させなければなりません。
また、運転中だけでなく、製造、出荷、充電、廃棄に至るまでの過程で、CO2排出を抑制することも重要です。
行政は、安全性に考慮して慎重に規制を設ける必要があります。現在、自転車や電動キックボードの運転者の命に関わる事故の80%以上が車やトラックがライダーにぶつかる事例であるため、指定車線や、専用駐車スペースの設定は良い打ち手となる可能性があります。
■ 調査レポート
「The Promise and Pitfalls of E-Scooter Sharing」
電動キックボードシェアリングの2025年時点の世界市場規模と収益性、課題について調査しました。
「How E-Scooters Can Win a Place in Urban Transport」
電動キックボードシェアリングの収益性についての試算を更新、普及の条件を考慮してアメリカとヨーロッパの都市をタイプ分けし、展開余地を推計しました。
■ 日本における担当者
古宮 聡 マネージング・ディレクター & シニア・パートナー
BCG自動車セクターのアジア・パシフィック地区リーダー。日本フィリップス株式会社、レーザーテック株式会社ロンドン支店を経て現在に至る。明治大学政治経済学部卒業。IMD(International Institute for Management Development)経営学修士(MBA)。
富永 和利 マネージング・ディレクター&パートナー
BCG産業財・自動車グループの日本共同リーダー、オペレーショングループのコアメンバー。トヨタ自動車株式会社、ブーズ・アンド・カンパニーなどを経て現在に至る。ペンシルバニア大学工学部卒業。マサチューセッツ工科大学経営学修士(MBA)、コーネル大学工学部修士(MS)。
■ 本件に関するお問い合わせ
ボストン コンサルティング グループ マーケティング 直江・嶋津・福井
Tel: 03-6387-7000 / Fax: 03-6387-0333 / Mail: press.relations@bcg.com
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日本では、1966年に世界第2の拠点として東京に、2003年に名古屋、2020年に大阪、京都、2022年には福岡にオフィスを設立しました。