一方、サステナビリティ経営への取り組み本格化はこれから
経営コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)は、東証プライム上場企業を対象に、企業のカーボンニュートラル(CN)経営、およびサステナビリティ経営の成熟レベルを分析する調査を行いました。本調査は2023年9月~10月に実施され、265社から有効回答を得ました。昨年に引き続き、BCGが独自に開発した指標「BCGカーボンニュートラル・インデックス」を用いて日本企業のCN経営に関する取り組みを網羅的、統合的に診断したほか、今回より、重要性が高まっているサステナビリティ経営についてもあわせて調査しました。
日本企業のCN経営への取り組みは着実に進展
「BCGカーボンニュートラル・インデックス」は、CN経営、および生物多様性の保全や廃棄物削減、人権デューデリジェンスの達成を目指す「サステナビリティ経営」の実現に向けた検討を支援する指標です。CN経営に関する5つの観点とサステナビリティ経営について、さらにそれらを詳細に分解した評価項目について4段階で成熟度を診断します(図表1)。
日本企業全体のスコアは、昨年と同様レベル2 (CN化への取り組みに全社的に着手)の段階でしたが、スコアは2.10から2.19へと、約0.1ポイント上昇しました。「1. 経営戦略を示す」「2. 要件を充たす」「3. 競争優位性を構築する」「4. 新規事業機会を探索する」「5. 実現するための基盤を構築する」という5つの観点の中では、「2. 要件を充たす」が2.49と高スコア、かつ昨年比約0.3ポイント上昇しており、GHG(温室効果ガス)削減目標の設定や削減計画の具体化が進んでいることが見て取れます。昨年の課題であった「実現するための基盤を構築する」が、レベル1からレベル2に向上した一方で、「新規事業機会を探索する」は、レベル2からレベル1に後退し、カーボンニュートラルを切り口に"攻め"へ転換することへの難しさが浮き彫りになりました。
CN経営では継続回答企業がスコア向上をけん引 「早く取り組む」「継続する」ことが重要
昨年からの継続回答企業は、CN経営に比較的早期から取り組んできたと考えられますが、今回、そうした企業のスコアは2.32 (前年比+0.15ポイント)と、全体をけん引する結果となりました。全体では先行するグローバル先進企業とはまだ差がありますが、昨年からの継続回答企業は徐々に距離を詰めているといえます(図表2)。
調査を担当したBCG東京オフィスのマネージング・ディレクター&シニア・パートナー、丹羽 恵久は「CN経営の成熟レベルを着実に高めるうえでは『早く取り組む』『継続する』ことが重要です。まずは愚直に取り組み、継続することで、実行段階の具体的な課題を明らかにし、さらなる取り組み強化につなげていくことがカギとなります」とコメントしています。
サステナビリティ経営への取り組みはこれから本格化
日本企業のサステナビリティ経営への取り組みはまさにこれから本格化しようとしています。全体平均はレベル 1(準備・部分的着手段階)、テーマ別では「廃棄物・サーキュラー」「人権デューデリジェンス」についてはレベル 2(全社的に着手)におよぶ一方、「生物多様性・自然資本」についてはレベル 1 (準備・部分的着手段階)にとどまっています。
サステナビリティ経営のテーマは多岐にわたるため、企業にとって取り組みの方向性を具体化することはより難しいと考えられます。自社の属する産業にとって重要度の高いテーマを選定することがカギとなります。また、今後TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が示したような国際的な枠組みが形成されていくのに合わせて、企業は取り組みの範囲を拡大・具体化していくことが必要となります。まずはサステナビリティ経営実現に向けた取り組みの重要性と、その実行を加速する必要性について全社的に認識を共有し、特に成熟度の低いテーマに重点的に取り組むことが求められています。
産業別でも脱炭素化に向けた取り組みのすそ野が広がる
レポートでは産業ごとのCN経営の成熟レベルも診断しました(図表3)。エネルギー、鉄鋼・非鉄・鉱業など、GHG排出量が大きい産業でカーボンニュートラルが経営課題として捉えられ、取り組みが進んでいる点は昨年と同様でしたが、カーボンニュートラルに側面的に関与する産業やGHG排出量が小さい産業においても徐々に取り組みが本格化しており昨年より裾野が広がった様子が見て取れます。具体的には、物流業や情報通信業が昨年のレベル1からレベル2に改善しました。
本調査を監修した、BCGシニア・アドバイザーである、東京大学 未来ビジョン研究センター 高村ゆかり教授は以下のようにコメントしています。「脱炭素化に向けた企業の取り組みがグローバルで加速する中、今回の調査で日本企業のCN経営の進展を確認できたのは喜ばしいことです。今後は、もう一段の加速化に向け、新しい事業機会を構築することや企業内での意思決定プロセスとの紐づけ等に取り組む必要があることも明らかになりました。また、生物多様性などサステナビリティのテーマについては、脱炭素化とも相互に関係しており、今後重要性が増すことも想定され、この調査をきっかけに企業の認識が高まることを期待します」
■ 調査レポート
■ 調査概要
東証プライム上場企業265社を対象に、「BCGカーボンニュートラル・インデックス」に基づいて評価
■ 担当者
丹羽 恵久 マネージング・ディレクター & シニア・パートナー
BCG気候変動・サステナビリティグループ、パブリックセクターグループの日本リーダー。BCGテクノロジー・メディア・通信グループ、社会貢献グループ、および組織・人材グループのコアメンバー。
慶應義塾大学経済学部卒業。国際協力銀行、欧州系コンサルティングファームを経て現在に至る。
平 慎次 マネージング・ディレクター & パートナー
BCG気候変動・サステナビリティグループ、およびエネルギーグループのコアメンバー。
京都大学工学部卒業。東京電力ホールディングス株式会社(旧東京電力株式会社)を経て現在に至る。
■ 本件に関するお問い合わせ
ボストン コンサルティング グループ マーケティング 井上・小田切・嶋津
Tel: 03-6387-7000 / Fax: 03-6387-0333 / Mail: press.relations@bcg.com
BCGは、ビジネスや社会のリーダーとともに戦略課題の解決や成長機会の実現に取り組んでいます。BCGは1963年に戦略コンサルティングのパイオニアとして創設されました。今日私たちは、クライアントとの緊密な協働を通じてすべてのステークホルダーに利益をもたらすことをめざす変革アプローチにより、組織力の向上、持続的な競争優位性構築、社会への貢献を後押ししています。
BCGのグローバルで多様性に富むチームは、産業や経営トピックに関する深い専門知識と、現状を問い直し企業変革を促進するためのさまざまな洞察を基にクライアントを支援しています。最先端のマネジメントコンサルティング、テクノロジーとデザイン、デジタルベンチャーなどの機能によりソリューションを提供します。経営トップから現場に至るまで、BCGならではの協働を通じ、組織に大きなインパクトを生み出すとともにより良き社会をつくるお手伝いをしています。
日本では、1966年に世界第2の拠点として東京に、2003年に名古屋、2020年に大阪、京都、2022年には福岡にオフィスを設立しました。