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米国が関税を大幅に引き上げた場合、米国の輸入関税コストは6,400億ドル増加する可能性。世界貿易の変化が加速~BCG調査

自動車産業への影響が大きく、日本は打撃を受ける国のひとつ

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【参考資料】

(本資料は、2025年1月13日に米国で発表されたプレスリリースの抄訳です)

ボストン発、2025年1月13日 ―― 経営コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)は、マクロ経済データから財貿易の未来の姿を予測する独自のモデル、グローバルトレードモデルを基にした調査レポートの最新版、「Great Powers, Geopolitics, and the Future of Trade」を発表しました。

関税引き上げがなければ世界貿易は年平均2.9%で成長し、2033年には29兆ドルを超える見込み

BCGは2018年以降、膨大なマクロ経済データを基に、AIを活用して世界貿易の変化を追ってきました。その最新版となる今回のレポートでは、米国による大幅な関税引き上げがなされなかった場合、2033年までの間、世界貿易は年平均2.9%で成長し続けると予想しています。2033年には世界の貿易額は29兆ドルを超える見込みです。ただし、米国が中国との貿易を減らし、中国がグローバルサウス(新興・途上国)との関係を強化するなかで、貿易ルートは大きく変化すると見られます(図表1)。

米国の関税引き上げ措置が実行された場合、自動車産業に特に大きな影響

レポートでは、米国の今後の関税措置がそれぞれの国や地域、および産業に与える影響について分析しています。

BCG独自のモデル分析により、60・25・20シナリオ(中国に60%、カナダおよびメキシコに25%、その他の国からの輸入品に20%の関税が課されるケース)が実現したときの影響を検証しました。代替サプライヤーが見つからない場合、上位10カ国からの米国の輸入関税コストは、2023年の輸入額を基準に計6,400億ドル増加する可能性があると予測されます(図表2)。

製品カテゴリー別にみると、自動車と自動車部品が大きな打撃を受け、それにより主にメキシコ、EU、日本との貿易に影響があると考えられます。また、中国への関税引き上げは、消費者向け電子製品、電気機械、ファッションのカテゴリーに大きな影響を及ぼします。60%の関税が課された場合、中国から米国への消費者向け電子製品の輸入関税コストがおよそ610億ドル増加すると予想しています。

米中間の貿易額は大幅に減少、中国はグローバルサウスとの連携を強化

レポートでは、2023年時点と比較した2033年までの主要な変化を次のように予測しています。

  • 米国、メキシコ、カナダ: 中国への依存から脱却するためのニアショアリング(地理的に近い場所に生産拠点を置く)、フレンドショアリング(友好国とサプライチェーンを構築する)を目指して3カ国の貿易は強化され、北米の経済成長に寄与する。米国がメキシコに新たな関税を課さない場合、米国とメキシコの年間貿易額は3,150億ドル増加し、年平均成長率(CAGR)は4%に達すると予測される。しかし、関税政策やUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)にどのような動きがあるかが、今後を大きく左右する
  • 中国: 中国の次の10年の貿易総額のCAGRは同期間のGDP予想成長率(3.8%)を下回る2.7%と予想される。米国・EUとの貿易が鈍化する一方で、その他の国々との貿易が拡大する。米中間の年間貿易額は1,590億ドル減少すると見込まれており、米国が中国への関税を大幅に引き上げた場合、この減少幅はさらに拡大する可能性がある。最も極端なシナリオでは、米中間の年間貿易額は約25%減少し、代替サプライヤーが見つからず輸入量も変わらない場合、中国製品の輸入関税コストが2,000億ドル以上増加すると推定される。一方、中国とグローバルサウスとの年間貿易額は1.25兆ドル増加し、2033年までのCAGRは5.9%と予測
  • グローバルサウス: グローバルサウス(133カ国)は世界人口の62%を占めるが、GDPの世界シェアは約18%。世界貿易額の約30%を占めている。中国との貿易は引き続き力強く成長するが、そのCAGRは5.9%に減速する(過去5年間は7.5%)見込みで、これは現地の製造能力が成熟するため。一方、グローバルサウス内の年間貿易額は6,730億ドル増加し、CAGRは3.8%(2017~2022年の2.8%から加速)と予想される
  • EU: EU(27カ国)と中国との貿易は停滞する見込み。ロシアとの年間貿易額は、ロシア産エネルギーの輸入減少や経済制裁の継続により、1,060億ドル減少すると予測される。全体の貿易総額は、2033年まで年間2%の成長を続けるとみられる。特に米国との年間貿易額は、主に米国産LNGの輸入増加により、3,030億ドル増加する見込み。また、インドやアフリカとの貿易も加速する
  • ASEAN: 米中間の貿易摩擦など、地政学的要因による生産拠点の移転でASEAN諸国は最大の恩恵を受けている。製造能力の向上や産業バリューチェーンへの関与の深化を背景に、ASEANの貿易総額は2033年まで年間 3.7%の成長を続ける。特に中国との年間貿易額は年5.6%の成長率で増加し、2033年には5,580億ドルに達すると予測される。一方、EUや米国との貿易の成長は緩やかになる見込み
  • インド: 主要経済国と良好な関係を築いており、貿易総額はCAGR 6.4%で増加、2033年には1.8兆ドルに達すると見込まれる。その要因には、サプライチェーンの中国への集中から脱却し多様化を目指す企業がインドを生産拠点としていること、製造業に対する大規模な政府のインセンティブ、低コストで豊富な労働力、そしてインフラも急速に改善されていることが挙げられる

BCG東京オフィスに所属し、地政学を専門とするプロジェクトリーダー、許斐 建志は次のようにコメントしています。「企業リーダーにとって、時代の先を行くことがこれまで以上に重要になっています。リスクが高く、急速に変化する新たな現実のなかで事業を運営するには、柔軟なサプライチェーンを継続的に築くことが必要です。そして最も重要なのは、地政学的な変化を素早く感知し、対応する能力を確保することとなるでしょう」

■ 調査レポート

Great Powers, Geopolitics, and the Future of Trade

■ 日本における担当者

マット・スイーニー マネージング・ディレクター & パートナー
BCGグローバル化戦略グループの日本リーダー。保険グループ、金融グループ、プリンシパル・インベスター&プライベート・エクイティグループのコアメンバー。
ブリガムヤング大学卒業、イエール大学経営学修士 (MBA)。BCGに入社後、野村證券、シンガポールのスタンダードチャータード銀行、外資系コンサルティングファームを経てBCGに再入社。

許斐 建志 プロジェクトリーダー
BCGグローバル化戦略グループのコアメンバー。地政学分野を専門とする。
京都大学大学院人間環境学研究科修了。グローバルコンサルティングファームなどを経て現在に至る。

■ 本件に関するお問い合わせ

ボストン コンサルティング グループ マーケティング 中崎・小川・嶋津
Tel: 03-6387-7000 / Fax: 03-6387-0333 / Mail: press.relations@bcg.com

ボストン コンサルティング グループ(BCG)

BCGは、ビジネスや社会のリーダーとともに戦略課題の解決や成長機会の実現に取り組んでいます。BCGは1963年に戦略コンサルティングのパイオニアとして創設されました。今日私たちは、クライアントとの緊密な協働を通じてすべてのステークホルダーに利益をもたらすことをめざす変革アプローチにより、組織力の向上、持続的な競争優位性構築、社会への貢献を後押ししています。

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日本では、1966年に世界第2の拠点として東京に、2003年に名古屋、2020年に大阪、京都、2022年には福岡にオフィスを設立しました。