日本企業は他国に比べイノベーション成熟度が低い。成功のカギは、イノベーションを実現するための準備態勢の確立
(本資料は、2021年4月15日に米国で発表されたプレスリリースの抄訳です)
ボストン発、2021年4月15日 ―― 経営コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)は、イノベーションに関する調査レポートの最新版、「Most Innovative Companies 2021: Overcoming the Innovation Readiness Gap」(以下、レポート)を発表しました。2005年に初めて発表されたこの調査は、今年で15回目となります。
最もイノベーションに優れた企業: イノベーション企業ランキング 50社
レポートには、イノベーションに関わる経営層約1,600名へのアンケート調査の結果やTSR(株主総利回り)などを基に、イノベーションに優れた企業を選出した「イノベーション企業ランキング トップ50」を掲載しています。今年のトップ50には新型コロナウイルス感染症対策に関連する企業が多くランクインしています。通常では開発に10年以上かかるとされるワクチンをいち早く開発したファイザー(10位)、モデルナ(42位)や、迅速に検査結果が出る検査機器の開発に取り組んだアボット(29位)、ボッシュ(30位)などです。
日本企業では、9位にソニー、21位にトヨタ自動車、33位にファーストリテイリング、45位に三菱商事と計4社がランクインしています(図表1)。
コロナ危機を変曲点に、イノベーションが経営のトップアジェンダに
コロナ危機によって既存のビジネスモデルが試された結果、各社は、レジリエンス(回復力)を高める手段としてこれまで以上に緊急性を持ってイノベーションに取り組むようになってきています。イノベーションを経営の優先課題の上位3位以内とした企業は75%にのぼりました。前年比は10%増であり、この増加幅は調査を始めてからの15年間で最大です。また、60%の企業がイノベーションへの投資を拡大させることを予定しており、そのうち3分の1は2020年の水準に比べ10%以上の増加を計画しています。
一方で、8割の企業はイノベーション実現のための準備態勢を整えなおす必要
経営の高い目標を成果につなげるには、ノベーション戦略とそれに沿った仕組みの構築が必要ですが、それができている企業はわずか20%にすぎません。残り8割の企業は、イノベーションから期待する成果を生むために、イノベーション戦略、オペレーションモデルの設計、組織能力を変革し、イノベーションを実現する準備態勢を根本的に改善する必要があります。
イノベーションの戦略と仕組みを確立している企業は、そうでない企業に比べ、新製品や新サービス、新しいビジネスモデルの開発投資において約3~4倍のROI(投資利益率)を実現しています。また、コロナ危機前に調査した2020年のランキング上位50社の2020年のTSRは、MSCI Worldインデックスを17%ポイント上回っています。このことから、イノベーションを実現する準備態勢を整えることは、企業にとって大きな成果をもたらすと考えられます。
イノベーションにおける2つの大きな課題
イノベーションの準備態勢を整えられていない企業の大きな課題の一つは、経営陣自らがイノベーションをリードできていないことです。イノベーションの成果(新製品や新サービスによる売上高の割合で測定)で同業他社よりも優れている企業のうち、90%近くで経営役員レベルが明確なオーナーシップを示しているのに対し、同業他社より劣っている企業では、その割合がわずか20%です。
もう一つの課題は、研究開発部門と顧客担当部門(事業開発、マーケティング、営業など)の間の断絶です。今回の調査では、企業の約3分の1が、研究開発チームと営業チームがうまく協業できていないことがイノベーションの成果を上げるうえでの最大の障壁だとしています。レポートでは、ランキング上位の企業がどのように課題を克服しているかについても解説しています。
多様性とイノベーション
ランキング50位までの企業は、リーダー層における性別や民族の多様性が高い傾向にあります。たとえば、マイクロソフト、アリババ、シスコ、フィリップス、ノバルティスなどは高い水準でダイバーシティ&インクルージョンを実現しています。データの解析から、イノベーションが多様性を高めるのではなく、多様性がイノベーションを促進することが分かっており、イノベーションをおこす準備態勢を整えるドライバーのひとつとして、取り組むべき領域といえます。
他国と比べ、日本企業はイノベーションへの投資意欲や仕組みの成熟度が低い
調査では、日本、米国、中国、インド、ヨーロッパを対象に国・地域別で分析を行いました。その結果、コロナ危機を契機にイノベーションによって変わろうとしている海外の企業と異なり、日本企業はイノベーションの重要度は理解しているものの、実際に投資を増やし、イノベーションの仕組みを整えている企業は少数にとどまることが分かりました(図表2)。
日本での調査を担当したBCG東京オフィスのアソシエイト・ディレクター、佐野徳彦は次のようにコメントしています。「日本には技術に自信を持つ企業が多い一方で、イノベーションの投資や仕組みの成熟度では海外企業が先行しています。今後、カーボンニュートラル関連への技術投資で成果を上げ、ビジネスモデルの変革を実現するためには、各企業のイノベーションの戦略と仕組みを抜本的に見直していくことが必要です」
■ 調査レポート
「Most Innovative Companies 2021: Overcoming the Innovation Readiness Gap」
特集ページはこちらから
■ 調査概要
世界各国の広範な業種の経営幹部を対象に、イノベーションに優れた企業や自社のイノベーションへの取り組みについて訊ねた調査。BCGが初めてこの調査を実施したのは2004年、以降15回目の調査となる今回は約1,600名から回答を得ている。調査は2020年9月から10月と、2021年1月から3月の2回に分けて実施した。
ランキングの作成にあたっては、企業のパフォーマンスを以下の4つの項目で評価し、スコアの平均を取った。
■ 日本における担当者
平谷 悠美 マネージング・ディレクター&パートナー
BCGコーポレート・ファイナンス&ストラテジー・グループの日本共同リーダー。ヘルスケアグループのコアメンバー。一橋大学社会学部卒業、同大学大学院社会学研究科修了、ハーバード大学経営学修士(MBA)。
栗原 勝芳 マネージング・ディレクター&パートナー
BCGコーポレート・ファイナンス&ストラテジー・グループの日本共同リーダー。金融グループ、および保険グループのコアメンバー。東京大学経済学部卒業。株式会社大和証券グループ本社、外資系コンサルティングファームを経て現在に至る。
佐野 徳彦 アソシエイト・ディレクター、イノベーション戦略
BCGコーポレート・ファイナンス&ストラテジー・グループ、および消費財グループのコアメンバー。東京大学理学部卒業、東京大学理学系研究科生物化学専攻修了。
■ 本件に関するお問い合わせ
ボストン コンサルティング グループ マーケティング 直江・嶋津・福井
Tel: 03-6387-7000 / Fax: 03-6387-0333 / Mail: press.relations@bcg.com
BCGは、ビジネスや社会のリーダーとともに戦略課題の解決や成長機会の実現に取り組んでいます。BCGは1963年に戦略コンサルティングのパイオニアとして創設されました。今日私たちは、クライアントとの緊密な協働を通じてすべてのステークホルダーに利益をもたらすことをめざす変革アプローチにより、組織力の向上、持続的な競争優位性構築、社会への貢献を後押ししています。
BCGのグローバルで多様性に富むチームは、産業や経営トピックに関する深い専門知識と、現状を問い直し企業変革を促進するためのさまざまな洞察を基にクライアントを支援しています。最先端のマネジメントコンサルティング、テクノロジーとデザイン、デジタルベンチャーなどの機能によりソリューションを提供します。経営トップから現場に至るまで、BCGならではの協働を通じ、組織に大きなインパクトを生み出すとともにより良き社会をつくるお手伝いをしています。
日本では、1966年に世界第2の拠点として東京に、2003年に名古屋、2020年に大阪、京都、2022年には福岡にオフィスを設立しました。