楽観的だったNISQ期についての予測の仮定は修正 投資は引き続き堅調
【参考資料】
(本資料は、2024年7月18日に米国で発表されたプレスリリースの抄訳です)
ボストン発、2024年7月18日 ―― 経営コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)は、「The Long-Term Forecast for Quantum Computing Still Looks Bright」(以下、レポート)を公表し、量子コンピューティングが2040年までに世界全体で4,500億ドルから8,500億ドルの経済価値を生み出すという2021年時点の予測を維持しました。長期的な見通しに変更はないものの、NISQ期(~2030年、ノイズのある中規模量子マシンの段階)についての予測の仮定を見直しました。
予測の長期的な方向性を維持する一方、2030年までの予測の仮定を修正
BCGは2021年のレポートで、市場がNISQ期(~2030年)、量子優位性[注1]が広範囲に及ぶ時期(2030~2040年)、完全な誤り耐性獲得後(2040年~)の3つのフェーズを経て成熟すると予測し、それぞれの時期でエンドユーザーに生じる経済価値と、ハードウェアやソフトウェアのプロバイダー企業が得る経済価値を試算しました(2021年のレポートの図表8をご参照ください)。
今回の見直しによりNISQ期の価値創造に関する従来の仮定は、過度に楽観的であることが判明しました。その要因として、ハードウェア開発における技術的なハードルの高さと、AIを含む従来型のコンピューティングとの競争が予想以上に激しさを増していることが挙げられます。
NISQ期についても、ハードウェアとソフトウェアのプロバイダー市場についての予測は維持
BCGではNISQ期であっても、特に材料や化学物質のシミュレーションにおいて、量子コンピューターは年間1億ドルから5億ドルの価値を短期間で実現可能だと考えています。この予測は2021年時点の予測を大幅に下回るものですが、BCGでは以下の3つの要因から、2030年までにハードウェアとソフトウェアのプロバイダー市場規模が10億ドルから20億ドルに上るという予測には大きな影響は与えないと考えています。
公共部門からの支援:半導体、インターネット、GPSなどの技術に対して過去に行ってきたように、公共部門は発注や助成金を通じて大きな支援を行っています。BCGの試算によると、量子コンピューターの公共発注はすでに市場の半分以上を支えており、既存の計画の発表状況や量子技術の地政学的重要性から、この需要は今後3~5年は持続すると思われます。
企業の投資:大手企業はエンタープライズグレードの量子能力に投資しています。BCGが2023年に発表した量子技術の活用に関するレポートでは、フォーチュン500社の100件以上の概念実証プロジェクトを調査しており、その総投資額は3億ドルに達しています。
サプライチェーン: プロバイダーは、制御装置、希釈冷凍機、レーザー、真空装置、ソフトウェアなどの機器を含むサプライチェーンを形成することで、収益を生み出すことが可能です。BCGの調査では、サプライチェーンへの支出は、量子コンピューティングのハードウェアとソフトウェアによる今年の収益の5%から10%を占めると予測しています。
投資家の期待は継続: 量子コンピューティングへのベンチャーキャピタル投資は12億ドルに上る
技術面でさまざまな状況変化があったものの、量子技術への投資家の高い期待は維持されています。技術投資全体が50%減少する中で、量子コンピューティングは2023年にベンチャーキャピタルから12億ドルを集め、その将来性に対する投資家の信頼が続いていることを裏付けています。各国の政府も、量子コンピューティングが国家安全保障や経済成長の中心的役割を果たす未来を想定し、この技術に多額の投資を行っています。公共部門からの支援は、今後3~5年間で100億ドルを超えると予想されており、この技術の規模を拡大するのに必要な準備は整っています。
共著者の一人であるBCGボストン・オフィスのマネージング・ディレクター&パートナー、マット・ランジオンは、「NISQ期の収益に関する私たちの以前の楽観論は、十分に根拠のあるもので、技術プロバイダーの収益は年間10億ドルに近づいています。しかし、エンドユーザーにとって意味のある価値の創出にはまだ時間がかかるでしょう。重要な進展の兆しがあり、明確なロードマップが描かれているにもかかわらず、量子コンピューティングはまだ『ChatGPTの瞬間』を経験していません」とコメントしています。
[注1]量子コンピューターが従来型コンピューターの性能を上回ること
■ 調査レポート
「The Long-Term Forecast for Quantum Computing Still Looks Bright」
■ 関連する過去のプレスリリース
「量子コンピューターが15~30年以内に最大8,500億ドルの価値を創出すると予測~BCG調査」
(参考資料、2021年8月23日)
■ 日本における担当者
渡辺 英徳 パートナー
BCGのデジタル専門組織であるBCG X、BCGエネルギーグループ、および産業財・自動車グループのコアメンバー。
東京大学理学部物理学科卒業。同大学大学院理学系研究科物理学専攻理学博士。慶應義塾大学理工学部数理科学科で特別研究助教として勤務した後、グローバルコンサルティングファームを経てBCGに入社。
■ 本件に関するお問い合わせ
ボストン コンサルティング グループ マーケティング 小川・中林・嶋津
Tel: 03-6387-7000 / Fax: 03-6387-0333 / Mail: press.relations@bcg.com
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日本では、1966年に世界第2の拠点として東京に、2003年に名古屋、2020年に大阪、京都、2022年には福岡にオフィスを設立しました。