" "

2023年最初の8カ月間の世界M&A市場は前年に続き減速、案件数は前年比14%減、取引総額ベースでは41%減~BCG調査

金利上昇や地政学的緊張で ただし今後は回復する兆し

印刷用PDFはこちら

【参考資料】

(本資料は、2023年10月26日に米国で発表されたプレスリリースの抄訳です)

ボストン発、2023年10月26日 ―― 経営コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)は、「2023 M&A Report」(以下、レポート)を発表しました。20回目となる今回のM&Aレポートでは、1990年1月~2023年8月に公表された88万件以上のM&A案件のデータを蓄積したBCGのデータベースに基づいて分析しています。

2022年のグローバルM&A市場の取引総額は平均的水準に戻り、2023年も減少が続く

M&A取引量が急増したコロナ危機後の2021年から2022年初頭にかけての時期を経て、2022年途中からM&A市場は減速しています。2023年の年初から8月までのM&A市場は、案件数は前年比14%減少、取引総額ベースでは前年比41%減の約1兆1,800億ドルでした(図表)。レポートでは、金利上昇や地政学的緊張、景気後退への懸念がその背景にあると分析しています。

2022年の途中から続くM&A市場の低迷は各地域において顕著でした。インド、台湾、イタリア、ルーマニアはやや回復を示した一方で、米国、カナダ、フランス、ドイツはより大きな打撃を受けました。2022年に最も活発にM&Aが行われた業界は、エネルギー、電力、および資源業界でした。

また、特に強固な財務基盤を持つ大胆なディールメーカーのなかには、市場が活発だった2年前にはディールが難しかった「掘り出し物」を求めて、市場が低迷した状況をうまく利用した企業もありました。ESGや、AIを含むデジタル化に関する戦略的イニシアティブを追求するためにM&Aを活用した企業も多くありました。

2024年にはM&A市場は回復の兆し

資金調達コストの上昇や地政学的緊張、独占禁止法等の規制の変化など、M&A市場を取り巻く環境は引き続き厳しいものの、2023年に底を打ち、2024年に向けては回復する兆しを見せています。その要因は4つあります。

  • 潤沢なドライパウダー(投資先未定の待機資金): 政府系ファンド、プライベート・エクイティ、ベンチャー・キャピタル、一部の大企業が保有する豊富な資金が、短期的にはディールメーキングの大きな支えとなるだろう
  • 値付けに影響を与える要因(インフレ、資金調達コスト)の安定化: この1年間、売り手と買い手の間の事業/企業価値評価をめぐる期待値の差が、ディールメーキングの妨げとなってきた。しかし、インフレ水準、資金調達コスト、不確実性など、取引価額に影響を与える多くの要因は安定しつつある。売り手が今後数カ月の間にこの新たな状況を徐々に受け入れることで、売り手と買い手の期待値のギャップは縮小すると予想される
  • 規制と政策の変化: 規制や政策の変化がM&A活動に影響を与えるケースが増えている。伝統的な独占禁止法は、特に大手テクノロジー企業にとって、大規模なディールを複雑にしている。ディールメーカーは、海外直接投資規制、国家安全保障への配慮、制裁に関するハードルも乗り越えなければならない。その一方で、独占禁止法の監視下で行われる取引は、こうした懸念に対抗するための救済措置として、事業分離に拍車をかけることも多い
  • サプライチェーンのレジリエンス強化: ニアショアリング、フレンドショアリングを含む地域化戦略など、サプライチェーンのレジリエンスを強化するための取り組みに、ディールメーキングが資する可能性がある

さらに、企業はESGとデジタル化の課題に向き合うためにM&Aを利用し続けると考えられます。成長分野での買収や、M&A・売却を通じた事業ポートフォリオの再編など、自社の変革を企図するトランスフォーメーション・ディールに集中する企業もあるでしょう。

レポートでは、6つの地域について今後の市場見通しの違いを掘り下げています。日本については、アジア太平洋の主要経済圏の中で2023年上半期に唯一、M&A案件数と取引総額が増加しており、低金利や株主からの圧力、経済成長の鈍化が、引き続きM&A市場を促進すると分析しています。

M&A成功に向けた10の必須要件――BCG M&Aレポート発刊20周年に寄せて

BCGのM&Aレポートが今年、20周年を迎えたことを機に、M&Aの成功に向けた要件をまとめました。「コンフォートゾーンの外に出る、ただし出すぎない」「タイミングを操れるようにする」「より多く支払う、ただしキャッシュで」など10の必須要件については、レポートをご参照ください。

レポートの共著者で、BCG東京オフィスでM&A分野を主導するマネージング・ディレクター&パートナー、横瀧 崇は、次のようにコメントしています。

「日本のM&A市場はグローバルとは異なり堅調に推移しています。グローバルが低調であることの影響もあり、日本企業による海外企業の買収は前年比で大きく増加し、コロナ禍による減少から回復を見せています。日本市場が成熟化し成長が鈍化するなか、さらなる海外ビジネスの拡大、新規事業の開発、コア事業のビジネスモデル転換等の経営アジェンダにM&Aが活用される機会はさらに増えていくでしょう。また、その成長原資を捻出するための事業売却も並行して行うことで、資本効率を高めた成長を実現していくことが求められます」

■ 調査レポート

「2023 M&A Report」
最新のM&Aレポートを含む全シリーズはこちらからご覧いただけます。

■ 日本における担当者

横瀧 崇  マネージング・ディレクター & パートナー
BCGコーポレートファイナンス&ストラテジーグループの日本共同リーダー。
早稲田大学第一文学部卒業。ソフトバンク株式会社、グローバルコンサルティングファームを経て現在に至る。約20年にわたりM&A、アライアンス関連の支援に携わってきた。

■ 本件に関するお問い合わせ

ボストン コンサルティング グループ マーケティング 小田切・福井
Tel: 03-6387-7000 / Fax: 03-6387-0333 / Mail: press.relations@bcg.com

ボストン コンサルティング グループ(BCG)

BCGは、ビジネスや社会のリーダーとともに戦略課題の解決や成長機会の実現に取り組んでいます。BCGは1963年に戦略コンサルティングのパイオニアとして創設されました。今日私たちは、クライアントとの緊密な協働を通じてすべてのステークホルダーに利益をもたらすことをめざす変革アプローチにより、組織力の向上、持続的な競争優位性構築、社会への貢献を後押ししています。

BCGのグローバルで多様性に富むチームは、産業や経営トピックに関する深い専門知識と、現状を問い直し企業変革を促進するためのさまざまな洞察を基にクライアントを支援しています。最先端のマネジメントコンサルティング、テクノロジーとデザイン、デジタルベンチャーなどの機能によりソリューションを提供します。経営トップから現場に至るまで、BCGならではの協働を通じ、組織に大きなインパクトを生み出すとともにより良き社会をつくるお手伝いをしています。

日本では、1966年に世界第2の拠点として東京に、2003年に名古屋、2020年に大阪、京都、2022年には福岡にオフィスを設立しました。