金融機関では営業や貸出審査の効率化に威力
金融機関は生成AIをどのような領域でどう活用できるのか。営業、審査などにおける代表的な活用例を紹介するとともに、厳しいリスク管理基準のもとで活用するにあたって何を検討するべきか、ヒントを提示します。
生成AIによるチャットを通じた提案で消費者の潜在ニーズを発掘する
生成AIは、消費者の顧客体験を一変させる。それを予期させる、食品配達大手の米インスタカートの事例を紹介したい。同社のアプリにはChatGPTが組み込まれており、チャットボックスで「どうすればおいしいフィッシュタコスを作れるか?」「子供の健康にいいお昼ご飯のメニューは?」などと食に関する質問をすると、レシピのヒントや代替食材を教えてくれる。そしてそれらの商品は自動でカートに入り、購入できる。
これまでの買い物は「この商品がほしい」と分かっていて買う、顕在化したニーズをかなえるものだった。潜在ニーズの掘り起こしが起きるのは、たまたま店頭で見てほしくなるという偶発的な要素が大きかった。
しかし、インスタカートのような生成AIを組み込んだアプリを活用すると、店側がチャットを通じて提案を行うことで潜在ニーズを掘り起こせる。具体的な商品は分からないがこういうことをしたい、と伝えるとそれをかなえる商品が買えるというスムーズな買い物体験が実現できる。
企業側にとっては、消費者から選ばれるサービスになるだけでなく、消費者についての情報を蓄積可能という利点もある。チャットを通じ、入力者は子供がいることや、子供の健康を気にしているという情報を得られる。
これまでは、消費財メーカーも小売も、購入履歴からしか判断ができなかった。今後は顧客のライフスタイルや嗜好性など周辺の情報が分かり、これらの情報が蓄積されてくると、高いレベルで提案・広告のパーソナライゼーションが可能になる。
話しかけたくなるアバターに情報が集まる
消費者の情報を集めるために、ユーザーインターフェースはアバター(オンライン上に表示されるキャラクター)を利用する方向で今後進化していくだろう。特に、ある分野に詳しいなど際立った特徴を持つアバターは有効ではないだろうか。たとえば、時短で調理する方法に詳しい料理研究家や、食材を長持ちさせることに長けている主婦。話しかけたくなるアバターがいると、情報が集まりやすくなる。
性格も重要だ。あるメーカーが行った生成AIを使った自動応答の実験では、アバターに対し「ぐいぐい来られると嫌だ、もう少しそっとしておいてほしい」という希望を持つ人がいることが分かった。消費者それぞれに対して好みのインターフェースを提供できれば、企業はより多くの情報を得られ、競争優位性につながるだろう。
また、音声入力の精度が上がれば、文字での入力を面倒に感じる人にとっての利便性も向上し、さらに幅広い層が活用すると考えられる。たとえば比較的余暇が多いと思われる高齢者は、空いた時間に思わずアバターに話しかけてしまうのではないか。
ある若年層向けのサービスでは、アバターに対し最も話しかける頻度が高いのは都心で一人暮らしをしている層だという。アバターとの会話を使うサービスはさまざまな層に受け入れられるだろう。
広告かおすすめか、どちらの観点で生成AIを活用するかの議論が必要
生成AIは、消費財メーカーにとっても小売にとっても、商品開発や物流、マーケティング、カスタマーサポートまで、幅広い領域で活用余地がある。
たとえば、自動応答を活用した顧客インタビューや、アパレル企業におけるモデル着用イメージの生成。ECサイトでは、これまで商品画像へのタグ付け(アパレルであれば、トップスかボトムスかワンピースかといったカテゴリーや色、柄、どの年代向けかなど)を人の手で行っていたが、今後は生成AIが自動で入力できる。
それらの中で特に着目したいのは、商品画像の生成だ。より多く、より質の高い画像を顧客への提案に活用できるようになるため、特にアパレル業界では影響が大きい。家具もよい例だ。従来、椅子や机を買うときに、店頭では自分の部屋にサイズが合うかどうか分からなくてあきらめたり、検索でも労力がかかったりしていた。自分の部屋に家具を配置するような画像を生成できれば、顧客体験を飛躍的に向上させられる。
一方で、生成AIによる提案は、これまで以上に広告との兼ね合いが課題になる。現在も、検索結果として出てくる商品が純粋な検索結果なのか、広告なのかの見分けがつかなくなりつつあることが問題視されている。生成AIに関しても、広告の事業として活用するのか、本来の意味で顧客へのおすすめに活用するのかの検討が重要と考えており、消費財メーカーや小売にとっては今後の議論になっていくだろう。
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