不確実性が高まるなか、リスクマネジメントおよび戦略の立案に対する、より新しい、よりダイナミックなアプローチが求められている。成功する企業は、柔軟で多様な視点を受け入れる戦略的な謙虚さ、先を読んで備える姿勢、未来を自らのものにするために積極的に行動する文化を醸成している。そのような企業には以下の4つの重要な特徴が見られる。
  • リスクを、片面がチャレンジ、もう片面がチャンスというコインの表裏と捉える。
  • 直面するすべてのディスラプション (既存プレーヤーの脅威となるような革新的なイノベーション) について、戦略にもたらす意味合いを探索するが、重要なものだけに焦点を絞る。
  • 意思決定をサポートする戦略的リスク・インテリジェンス能力を有する。
  • 戦略立案プロセスにリスクレンズを、リスクマネジメント・プロセスに戦略レンズを組み込む。

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Key Takeaways

不確実性が高まるなか、リスクマネジメントおよび戦略の立案に対する、より新しい、よりダイナミックなアプローチが求められている。成功する企業は、柔軟で多様な視点を受け入れる戦略的な謙虚さ、先を読んで備える姿勢、未来を自らのものにするために積極的に行動する文化を醸成している。そのような企業には以下の4つの重要な特徴が見られる。
  • リスクを、片面がチャレンジ、もう片面がチャンスというコインの表裏と捉える。
  • 直面するすべてのディスラプション (既存プレーヤーの脅威となるような革新的なイノベーション) について、戦略にもたらす意味合いを探索するが、重要なものだけに焦点を絞る。
  • 意思決定をサポートする戦略的リスク・インテリジェンス能力を有する。
  • 戦略立案プロセスにリスクレンズを、リスクマネジメント・プロセスに戦略レンズを組み込む。
不確実性が高まるなか、リスクマネジメントおよび戦略の立案に対する、より新しい、よりダイナミックなアプローチが求められている。成功する企業は、柔軟で多様な視点を受け入れる戦略的な謙虚さ、先を読んで備える姿勢、未来を自らのものにするために積極的に行動する文化を醸成している。そのような企業には以下の4つの重要な特徴が見られる。
  • リスクを、片面がチャレンジ、もう片面がチャンスというコインの表裏と捉える。
  • 直面するすべてのディスラプション (既存プレーヤーの脅威となるような革新的なイノベーション) について、戦略にもたらす意味合いを探索するが、重要なものだけに焦点を絞る。
  • 意思決定をサポートする戦略的リスク・インテリジェンス能力を有する。
  • 戦略立案プロセスにリスクレンズを、リスクマネジメント・プロセスに戦略レンズを組み込む。

長期的な価値創造において、戦略上のリスクを何度もうまく予測し、乗り越える能力ほど重要な要素はない。しかし、多くの組織では、リスク回避の文化が深く根付いているために、経営陣は自らの組織がより機敏な競合企業に劣後する危険を招いている。真の戦略的リスクマネジメントとは、戦略目標の達成に向けて、組織能力を向上させる、あるいは損う可能性のあるディスラプションを予測して対策を講じ、それらを活用したり、軽減したりしながら、そこから学ぶ規律を構築することだといえる。私たちの経験上、この重要な能力が組織内に機能として組み込まれ、企業文化の中核をなし、戦略の策定・立案プロセスと統合されている例はほとんど見受けられない。

多くの組織ではリスク回避の文化があまりに深く根付いているため、経営陣は自らの組織がより機敏な競合に劣後する危険を招いている。

リスクマネジメントと戦略立案をより密接に関連付けなければ、起こりうる戦略的ディスラプションを優位性に変えていくことはできない。ビジネスの経済性を根本的に変える可能性のある新技術をいち早く採用することは、経営上あるいは法律上のデメリットを被る可能性をはらむ。また、規制やセクター全体の進化を形づくり、影響を与えるような動きは、否定的報道や望ましくない結果を招く可能性もある。しかし、そうした行動が競争上の優位性に大きな変化をもたらす可能性もある。

今こそ、リーダーはリスクについてより戦略的に考えるべきだ。先見的な戦略的リスク・インテリジェンスに関する能力とマインドセットを身に付けることで、組織はリスクをより幅広く捉え、単に事後対応的で防衛的な反応により価値を守るのではなく、リスクを積極的に受け入れ、価値創造につなげることに重点を移すことが可能になる。

現状

ほぼすべての企業が、財務リスク、法規制違反、災害復旧計画などに対処するため、何らかのリスクマネジメント・コンプライアンス機能を持っている。また、年次予算や中期計画を定期的に(時に形式的に)更新する戦略立案機能も備えている。

しかし、多くの場合、これらの機能はサイロ化している。従来のリスク・コンプライアンス部門ではリスクを軽減すべき、あるいは防御すべきネガティブなものとみなし、吟味したうえで戦略的に受け入れるべきものと考えることは少なかった。たしかに、潜在的な負の影響だけを見れば、リスク回避は理にかなっているかもしれない。しかし、リスクは片面がチャレンジ、もう片面がチャンスというコインの表裏のようなものだ。そのため、特に戦略レベルでリスクに対処するには、より緻密なアプローチが必要になる。

リスクへのアプローチを再考する

私たちの経験によると、不確実で、スピードが速く、複雑な現在のビジネス環境で最も大きな成功をおさめる組織は、リスクに対するよりスマートで戦略的なアプローチを通じて競争上の優位性を維持・向上している。このアプローチには以下の4つのベストプラクティスが含まれている。

リスクをコインの表裏と捉える。 ディスラプションにより、勝者と敗者の両方が生まれる。コインの両面を見て、チャレンジを回避するだけでなく、戦略的リスクの中でチャンスの可能性を構想し、果断に活用することができなければ、勝者の一員になることはできない。多くの組織は、リスクについての考え方や評価のしかたを再構築する必要がある。例えば、「ネガティブな結果をどう避けるか」という防御的な姿勢を取るだけではなく、「どうすればリスクそのものを封じ込められるか」、または「どうすればリスクを活用して競合を追い越せるか」 と問うことで、積極的な行動の可能性を探ることが求められる。

最も優れた組織は、リスクに対してより戦略的なアプローチを取ることで競争優位性を維持・向上している。

エネルギー企業の多くは、気候変動をめぐる将来の規制環境の不確実性に直面して、リスクを回避し様子見の姿勢を取ってきた。対照的に、オーステッドはコインを裏返した。デンマークのCO2排出量の1/3を占めていた同社は、時間を投入して将来のバリュープールを構想し、予測することを通じて、グリーンエネルギーが「グリーン(収益機会)」となりえることを突き止めた。その結果、持続可能なエネルギーへと成長戦略を転換する機会をつかみ、現在では洋上風力発電の世界的なリーダーとなっている。

直面する潜在的なディスラプションが戦略にもたらす意味合いを幅広く体系的に探索し、そのうえで重要なものだけに焦点を絞る。 起こり得るすべてのディスラプションが戦略上のリスクを意味するわけではない。そのため、組織の戦略的目標の達成に影響を与えうるディスラプションに焦点を絞る必要がある。AI、ブロックチェーン、ナノテクノロジーなどが典型的な例だが、各組織には独自のディスラプション・リストが存在するはずだ。ベストプラクティス企業は、主なディスラプションが戦略にもたらす意味合いを体系的に検討したうえで、その中から変化をもたらすディスラプションを絞りこむ。1990年代、米シアーズは、ウォルマートに代表されるディスカウントストア、ホームデポやベストバイなどの大型店、ギャップやザ・リミテッドなどの専門店が、同社の総合百貨店モデルに及ぼす脅威を真摯に受け止め、対処しなかったことで、Kマートに買収される道筋をたどる結果となった。同社の慎重なリスク選好と戦略的環境の読み違いとが相まって、直面する急激なディスラプションと厳しい競争市場を乗り切るにあたっての選択を誤ったのである。リスクは予測可能であり、立ち向かえたにも関わらず、同社は二の足を踏み、より根本的なビジネスモデルの革新にリソースを割くことなくアパレル事業の強化を選択し、結果、他企業による小売業界変革を許すこととなった。

最も優れた組織は、自社が直面するディスラプションのポートフォリオを迅速にトリアージ(優先順位付け)する能力を持っている。戦略目標に影響を与えうるディスラプションを抽出し、機能横断的でより深く、より創造的なアプローチで対処し、それ以外は組織の他の階層に委譲している。

また、どのリスクが、いつ、なぜ顕在化するのかを常に研究している。「何が起きているのか」「それは何を意味するのか」にとどまらず、「今、何をするべきか」に至るまでを理解することに努め、戦略的環境がどのように変化するかだけでなく、自らがどう動けば変化を先取りし、もしくは自ら変化を生み出し、加速して競合を不利な立場に追いやれるかに焦点を当てている。ディスラプションの発生確率に関する学術的な議論に気を取られるのではなく、ディスラプションが与える影響をより深く理解し、自社の態勢を整えることに集中している。この打ち手志向のアプローチにより、全社の連携が構築され、自ら積極的にディスラプションを引き起こす、あるいは特定のディスラプションが具現化し始めた際に迅速に対応するなど、決断力ある行動を取る準備を整えられる。

さらに、幅広い潜在的ディスラプションやシナリオに対し、自社のリスク選好度を明確に定義することも重要だ。特定のディスラプションの影響や、特定の行動を取ることのメリットを理解し、どうすれば「既存の価値の防衛」と「新たな価値の創造」のバランスをとりながら、戦略的な目標を達成できるかを決定する。

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戦略的リスク・インテリジェンス能力を構築する。 未来予測分析、ウォーゲーミングや競合シミュレーションのような方法論は、組織が未知の領域を開拓するうえで役立つ重要な組織能力となりつつある。これらは、ディスラプションを予測し、戦略的意思決定を支援し、競争優位性を強化し、レジリエンスを高めるのに有用だ。このようなデータドリブン、かつ、没入体験型のエクササイズ(例えば、机上演習、ウォーゲーム、本格的なシナリオプランニングなど)は、最初に救命・救護にあたるファーストレスポンダーの緊急事態訓練のように、さまざまな部門のビジネスリーダーが、これまで想定していなかった状況を熟考し、行動に移すことを促す。その目的は、将来何が起こるかを正確に予測することではなく、早期にディスラプションに対する「警告システム」を構築することだ。そのためには、起こり得る複数の未来を予測し、既存の計画のベースとなる仮定や前提に疑問を投げかけ、ギャップや脆弱性を特定し、競合他社の動きを予想し、価値創造の機会を浮き彫りにし、鍵となるトリガーを理解し、重要な戦略指標をトラックする強力な感知機能を持つ「監視塔」を構築することが必要だ。こうした機能を組み合わせることは、「テストし、早く失敗し、より早く学習する」文化を組織内に醸成し、具体化するうえできわめて有用である。この文化が戦略的レジリエンスの構築を促す基礎となる。

例えば、米ウォルマートは、自然災害、地政学的変化、パンデミック、その他の要因に起因するものを含め、同社の事業 1 1 Roberto Torres, “How Walmart Enhances Its Inventory, Supply Chain Through AI,” CIO Dive, December 13, 2022, https://www.ciodive.com/news/walmart-AI-ML-retail/638582/; Marcus Wohlsen, “How Store Shelves Stay Stocked Even After an Epic Hurricane,” Wired, November 1, 2012, https://www.wired.com/2012/11/sandy-supply-chain-impact/. Notes: 1 Roberto Torres, “How Walmart Enhances Its Inventory, Supply Chain Through AI,” CIO Dive, December 13, 2022, https://www.ciodive.com/news/walmart-AI-ML-retail/638582/; Marcus Wohlsen, “How Store Shelves Stay Stocked Even After an Epic Hurricane,” Wired, November 1, 2012, https://www.wired.com/2012/11/sandy-supply-chain-impact/. の需要と供給の両面に影響するディスラプションの予測に資する機械学習ツールを開発した。このツールを用いることにより、同社は必要な在庫を必要な場所に必要なタイミングで供給するための戦略および運用をより適切に実行できるようになっている。

戦略の立案プロセスにリスクレンズを、リスクマネジメント・プロセスに戦略レンズを組み込む。 このポイントに関しては、戦略策定とリスクマネジメントを統合し、経営として強力な先見性を持つことが理想だ。少なくとも、戦略的リスクを理解し準備することの重要性を、経営幹部や取締役会、そして最終的には組織全体に浸透させることが必要になる。リスク・インテリジェンスを戦略立案プロセスに統合し、単に最高リスク責任者(CRO)と最高戦略責任者(CSO)を議論の場につかせるだけでなく、より大きな決定権を持つ立場に置き、互いに積極的に関与させるのだ。

BCGが「不確実性下の優位性(Uncertainty Advantage)」と呼ぶ強みを組織制度化することは、単に将来のディスラプションに対応するだけでなく、それによって成長できる、戦略主導のリスク・インテリジェントな組織をつくることだと言える。図表に、戦略的リスクマネジメント・アプローチの重要な要素をまとめている。


従来のリスクマネジメントや戦略立案アプローチは、かつては企業において有効に機能していた。しかし、現在のより不安定で変化の速いビジネス環境では、リスクに対するより機動的なアプローチが求められる。従来のアプローチから戦略的リスクマネジメントへと移行するには、将来を予測しようとするのではなく、直面する重大な不確実性の交点に現れる複数の多様な未来を想像し、理解し、準備することから始めるべきだ。このアプローチを取ることで、既存の計画の継ぎ目や隙間に潜む課題や機会を明らかにすることが可能になる。これは、既存の価値の保護を念頭に置きながら、価値創造を最大化することを目指すものだ。そのためには、先を読んで準備する姿勢、戦略的な謙虚さ、そして未来を形作り自らのものにするために、リスクを十分検討したうえで積極的に行動する文化の醸成が求められる。

(原典: Uniting Strategies for Risk Management in Uncertainty