より多くの大規模新興国がBRICSプラスに加わることで、国際情勢の中でグローバルサウスの発言力が高まり、既存の制度の優位性に異議を唱える可能性がある。
  • BRICSプラスの10カ国は、世界人口の半分、貿易の5分の2を占め、主要なエネルギー生産国と輸入国を含む。さらに12カ国が加盟申請中である。
  • この経済圏は、エネルギー貿易、国際金融、サプライチェーン、技術研究に重要な意味を持つ制度を構築し始めている。
  • グローバル企業は今後、自社の投資戦略に地政学を織り込み、BRICS拡大がもたらす機会を捉え、リスクを軽減する能力を強化する必要がある。

Subscribe

Subscribe to receive BCG insights on the most pressing issues facing international business.

" "

Key Takeaways

より多くの大規模新興国がBRICSプラスに加わることで、国際情勢の中でグローバルサウスの発言力が高まり、既存の制度の優位性に異議を唱える可能性がある。
  • BRICSプラスの10カ国は、世界人口の半分、貿易の5分の2を占め、主要なエネルギー生産国と輸入国を含む。さらに12カ国が加盟申請中である。
  • この経済圏は、エネルギー貿易、国際金融、サプライチェーン、技術研究に重要な意味を持つ制度を構築し始めている。
  • グローバル企業は今後、自社の投資戦略に地政学を織り込み、BRICS拡大がもたらす機会を捉え、リスクを軽減する能力を強化する必要がある。
より多くの大規模新興国がBRICSプラスに加わることで、国際情勢の中でグローバルサウスの発言力が高まり、既存の制度の優位性に異議を唱える可能性がある。
  • BRICSプラスの10カ国は、世界人口の半分、貿易の5分の2を占め、主要なエネルギー生産国と輸入国を含む。さらに12カ国が加盟申請中である。
  • この経済圏は、エネルギー貿易、国際金融、サプライチェーン、技術研究に重要な意味を持つ制度を構築し始めている。
  • グローバル企業は今後、自社の投資戦略に地政学を織り込み、BRICS拡大がもたらす機会を捉え、リスクを軽減する能力を強化する必要がある。

東欧や中東での武力衝突や大国間の緊張状態の高まりに注目が集まる中で、世界秩序の構造的変化が静かに進んでいる。開発途上にある大国が、世界の経済情勢に大きな影響力を持つようになり、西側諸国主導の制度に替わる制度を構築し始めている。

この動きの中心にあるのが、「BRICSプラス」として知られる正式な政府間連合だ。加盟国は、古くからのメンバーであるブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国と、2024年1月に加盟、または招待されたエジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、UAEの5カ国である。この10カ国は合計で世界の原油の約40%を生産・輸出している。またこれらの国は、世界のGDPの4分の1、世界の財貿易の5分の2、世界人口の半分近くを占めている。タイやベトナム、バングラデシュなどの活発な新興市場を含め、加盟申請中の12カ国が加われば、このグループは世界のGDPの3分の1を占めることになるだろう。

拡大するBRICSプラスは、新興国が世界的な課題や新たな経済機会について協調できるチャンスをもたらしている。

大きく拡大したBRICSは、世界銀行や国際通貨基金(IMF)など、西側の影響を強く受ける、既存の国際制度の優位性に異議を唱えるようになった。さらに、主要な先進国と途上国の間で経済政策の調整を図るために1999年に創設されたG20の意義を低下させてもいる。実際、G20は両端でほころびが生じつつあり、経済的先進国である7カ国がG7を通じて結びつきを強化する一方で、開発途上ながら力のある6カ国はBRICSプラスの中で独自の意見を主張している(図表1)。

BRICSプラスが生み出した議論の場は、控えめに言っても、新興国が世界的な課題に対して協調する機会と、相互の経済発展や成長を促す新たな機会を生み出した。しかもそれらは着実に発展を遂げている。今では政治・金融の制度や、取引実行のための決済メカニズムの構築を始めており、このことはエネルギー貿易や国際金融、グローバルサプライチェーン、通貨政策、技術研究の未来に重要な影響を及ぼす可能性がある。その結果、グローバル企業は自社の投資戦略に、こうした地政学や経済における新たな現実を織り込まなければならなくなるだろう。同時に、それによってもたらされる機会を捉え、リスクを軽減する能力を強化する必要もある。

BRICSプラスの発展

当初4カ国だったBRICSは、2009年に初めて首脳会議を開催し、国際金融機関がグローバルサウスの利益に十分取り組んでいないとして、その改革について協議した。BRICSの5カ国全てが加盟している国連とG20を除けば、新興国の立場から経済や地政学の議題について協議できる、主要な会議の場は当時存在していなかった。第二次世界大戦後、西側諸国が中心となって設立した金融機関による開発援助やインフラのための資金提供は、厳しい条件を伴うことが多かった。

当初から、BRICSが連合体として十分に機能するレベルまで発展するかどうかについては懐疑的な見方があった。だがこれらの国々は年を追って、互いに経済的なつながりを深めている。BRICS加盟国間の財貿易は、BRICSとG7の国々との間の貿易をはるかに上回るようになり、BRICS域内の貿易は一層集中度を増している(図表2)。数十年間の急速な成長により、こうした国々の多くは、生産国としても消費国としても、世界経済における重要度が格段に大きくなってきている(図表3)。多くの国は、先進諸国だけでなく、経済・貿易の超大国として認識されている中国とも関わりがあるため、西側にそれほど依存しない別の連合を作り出せる。

近年の危機も、BRICSの拡大に拍車をかけている。力を持ち、NATOともロシアとも協調していない途上国の一部は、ロシアのウクライナ侵攻に際して西側諸国がロシア政府に加えた制裁に従うようにという圧力に抵抗した。また、気候変動や新型コロナウイルスのパンデミックを食い止めようとするG7諸国の取り組みが途上国のニーズを考慮していないとして不満を表明した国もあった。定期的な会合や共同の構想、正式な組織の設立を通じて、BRICSプラスではゆっくりと制度化が進んでいる。

とはいえ、BRICSプラスが有効な制度になるかどうかについては、今も懐疑的な見方が残っている。BRICSプラス諸国は、政治システム、制度的枠組み、経済モデル、文化的背景が極めて多岐にわたっている。地政学上、敵対関係にある国々さえ含まれている。例えばサウジアラビアとイラン、中国とインドの間には緊張関係が続いている。鉄鋼から化学品、機械類まであらゆるものを低コストで輸出する、いわゆる「チャイナショック」も、グループ内の貿易の緊張を高めかねない。さらにBRICSプラスの拡大が中東方面に大きく偏っていることにより、グループの発展に従い、一層の地域バランスが求められる可能性がある。

強大化したBRICSプラスは、エネルギー、貿易ネットワーク、インフラ、通貨政策、技術の各分野で、世界にきわめて大きな影響を与える可能性がある。

BRICSプラスが世界秩序を変える5つの方法

BRICSプラスは次の5つの分野で世界にきわめて大きな影響を与える可能性がある。

エネルギー。BRICSプラスには、世界最大級のエネルギー生産国と輸入国が集結している。イラン、サウジアラビア、UAEが加盟することで、BRICSプラスの加盟国は、世界の天然ガス生産の約32%、原油生産の43%を占めることになる。もしカザフスタン、クウェート、バーレーンの加盟が認められれば、これらの割合はさらに大きくなる。またBRICSプラス諸国の石油輸入量は世界の38%を占めていて、その筆頭が中国とインドである。新たに申請中のすべての国が加盟を認められると、その割合は55%に上昇する(図表4)。エネルギー市場が不安定な時に、最大規模のエネルギー輸入国と輸出国が同一グループ内に多数含まれていれば、従来の市場とは異なる独自のエネルギー取引システムが生まれる可能性がある。そうなれば、西側諸国主導の金融システムや、将来科されるかもしれない制裁プログラムとは無関係のところで加盟国間の取引が可能になるため、BRICSプラスは石油価格への影響力を持つようになるだろう。

貿易ネットワーク。貿易はBRICSプラスの経済発展の主要な原動力である。現在の加盟国の間で行われている財貿易の世界シェアは、2002年から2022年までに2倍以上の40%に増加した。特定のBRICSプラス加盟国において、他の加盟国との貿易への依存度が高まっていることに注目すると、この傾向は一層明らかになる。工業製品や消費財の供給国として、また商品(コモディティ)の輸入国としての中国の役割は拡大していて、BRICSプラス統合の重要な力となっている。例えば中国は、ブラジルの大豆や鉄鉱石の主要な取引先であり、電気自動車、太陽光パネル、重機といった先進的な商品の一大輸出国でもある。さらに、ウクライナでの戦争に関連した西側諸国の制裁により、ロシアの輸出品はBRICSプラス市場、特に中国とインドへ流れているのが実情だ。

BRICSプラス加盟国の中で、湾岸協力会議(GCC)や汎アラブ自由貿易地域(PAFTA)などのブロックを通じて相互に自由貿易協定(FTA)を結んでいる国は限られていて、現在BRICSプラスの10カ国全てを網羅するFTAはない。インドは、中国を含む東アジアの地域包括的経済連携(RCEP)の交渉から途中で離脱した。BRICSプラスはそれでも、さまざまな形でBRICSプラス域内の市場アクセス拡大に向けた議論の場になりうるだろう。例えばBRICSプラスではデジタル経済作業部会を開催し、さらに専門サービスやビジネスサービスの取引における協力を推進する枠組みを創設している。

インフラと開発への融資。BRICSプラスの制度構築の中でこれまでに最も大きく進展しているのは、プロジェクトや開発への融資である。資本金1,000億ドルで設立された新開発銀行(NDB)は、主に中国の「一帯一路」構想を資金面で補完している。エジプト、インド、ロシア、サウジアラビア、UAEは、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の出資国でもあり、同行の融資を受けている。2023年までに、NDBとAIIBは、インフラ、公衆衛生、クリーンエネルギーなど、幅広い分野に合わせて710億ドル以上の貸付を行っている(図表5)。こうしたプロジェクトはBRICSプラスの企業に膨大な収益を生み出している。サウジアラビアなどの資金力のある国々が加われば、BRICSプラスの財源はさらに拡大し、多様化するだろう。

通貨政策。BRICSプラス諸国は、西側主導の国際通貨システムからの独立性を高めたいと切望している。世界の外国為替取引の約90%はドル建てで、主に欧米の銀行を通じて行われている。ロシアに対する西側諸国の金融制裁は、米国がブレトン・ウッズ体制を通じて今なお強力で広範囲にわたる影響力を保持していて、世界の金融システムで中心的役割を果たしていることを浮き彫りにした。だが、BRICSプラスには商品(コモディティ)の主要な輸出国と輸入国が含まれていることから、このグループは米ドル以外の通貨で外国為替取引を行うためのトンネル役になる可能性がある。例えばNDBは貸付金の約5分の1を中国の人民元建てにしている。ロシア、中国、その他のBRICSプラス加盟国はデジタル通貨の普及も目指している。BRICSプラスはドル以外の複数通貨での取引が可能な決済アプリ「BRICS Pay」のベータ版を立ち上げた。これは、各国が米国への依存を減らし、制裁や、金融危機における外国為替相場の不安定な動きの影響を受けにくくするのに役立つだろう。ガバナンスの視点から、BRICSプラスは支払いタスクフォース、シンクタンク・ネットワーク・フォー・ファイナンス、BRICS緊急準備アレンジメントを立ち上げ、各国の金融危機対応を支援するために、IMFの資金の代わりに使える準備金をプールしている。

技術協力。宇宙はBRICSプラスの協業の中で見過ごされがちな側面である。BRICSプラスの宇宙協力連合委員会は、ロシアと中国、中国とブラジルの間の長年のパートナーシップに支えられている。BRICSプラスはほかにも、新産業革命パートナーシップや産業コンピテンシーセンターを設立している。これらの構想は、インテリジェント・マニュファクチャリング、AI、デジタル化、クリーンエネルギーといった分野の最先端技術における協力とイノベーションの推進を目指している。この取り組みは、より多くの新興市場が新たな技術分野に参入し、知的財産の創出力を高め、代替技術基準を導入する一助となるだろう。

企業はBRICSプラスの市場戦略、インフラブーム、チャイナプラスワン、リスクとコンプライアンス、地政学への対応を検討すべきだ。

企業への影響

拡大するBRICSプラスは、ビジネスに機会だけでなくリスクももたらす。企業はBRICSプラスが今後数年のうちに正式な制度や協定をさらに多く策定することを想定して、そうしたシナリオに沿って計画を立て始めるべきだ。特に次の5つの分野で対応を検討する必要がある。

  • BRICS独自のGo-To-Market戦略を策定する。BRICSプラス市場は今後10年にわたりきわめて大きな成長を遂げる可能性が高い。正式な貿易協定や投資協定はないが、すでにBRICS域内では大量の取引が行われており、さらに勢いを増している。BRICSプラス市場は、他の新興市場への拡大を目指す企業にとって貴重な入り口になるかもしれない。中国製のEVがBRICSプラス市場で収めた成功は、企業が加盟国の消費者にアピールする上で、製品をどうカスタマイズできるかを示す好例である。
  • インフラブームを利用する。BRICSプラスでは大規模なインフラ投資が見込まれており、それによって事業環境や接続性は改善するだろう。交通やデジタル通信、エネルギーなどのプロジェクトは、グローバル企業に対する需要を生み出し、投資家に機会を提供する。例えばNDBは、インド亜大陸全体で15の交通インフラプロジェクトに資金を提供している。
  • 「チャイナプラスワン」を取り入れる。多くの企業が、バランスを取るのが難しいサプライチェーン戦略を遂行している。製造業において中国が持つ、多くの競争上の利点を引き続き活用したいと考える一方で、リスクを軽減し、関連コストの変化に対応し、リショアリングやニアショアリング推進のために政府が出している奨励金を利用できるようにする必要もある。多極化が進む世界の中で、企業はBRICSプラスの経済を活用するサプライチェーンの構築を検討してもよいかもしれない。そうすることで、地政学や貿易上のショックに耐えるための強靭さを持てるようになるだろう。
  • リスクマネジメントとコンプライアンスに磨きをかける。ロシアのウクライナ侵攻で見られたような経済制裁や、米中の技術競争により、企業の法的リスクやオペレーショナルリスク、レピュテーショナルリスクは高まっている。BCGがリスク&コンプライアンス担当責任者250名を対象に実施した最近の調査では、地政学的リスクは現在、懸念事項の上位5位以内に入っていて、前回の調査から15位上昇していた。制裁はほとんどが西側諸国から科されている。今後、BRICSプラス諸国は互いに調整し合って「非制裁」の方針を取ると同時に、西側諸国主導の金融システムを避けようとするかもしれない。多国籍企業は自社の輸出入のグローバルサプライチェーン、為替レート、第三者審査、リスク&コンプライアンスのニーズを管理する上で、このシナリオを把握しておく必要がある。企業は西側諸国の制裁を守る必要があるとしても、今後出現するかもしれないBRICS独自のバリューチェーンを妨げずにそうすることができる。
  • 地政学的な不安定性への対応力をつける。冷戦終結後の比較的平和だった時期には、ビジネスリーダーが世界の政治や安全保障の問題に関与する必要は多くなかった。しかし最近では、地政学的不確実性と不安定性は高まる一方になっている。経営陣は、自社の業務やサプライチェーン、消費者、ブランドに影響する可能性のある幅広いシナリオに備えておかねばならない。資本配分の決定や戦略計画には地政学を織り込む必要がある。またリーダーは、事業効率とリスク低減のバランスを取るべく、自社の事業部門、職能、地域のマネジメントを通じて地政学情報の感知能力を構築しておくべきであろう。

最近の新たな地政学的緊張、経済的な目標と不安定性、貿易戦争、そしてパンデミックにより、これまで私たちがなじんできた事業環境に恒久的な構造変化と課題がもたらされたことは明らかだ。BRICSプラスの拡大は、数十年にわたり力強い経済発展を遂げてきた新興国が今、世界秩序の中でより大きな役割、すなわち彼らの利益をより強く反映した役割を果たせるようになったことを示している。この動きに適応できる企業は、多極化競争という変化の時代の中で成功を収める可能性が高いといえよう。

原典: An Evolving BRICS and the Shifting World Order