Managing Director & Partner
Paris
By Vinciane Beauchene, Renee Laverdiere, Sylvain Duranton, Jeff Walters, Vladimir Lukic, and Nicolas de Bellefonds
AIや生成AIがビジネスの現場に急速に導入されるにつれ、働き手の意識には2つの側面で影響が出てきている。
これらの一見すると矛盾した状況は、BCG Xが実施したグローバル調査から浮かび上がってきたものである。調査は世界15の国・地域で働く1万3,102人(経営層、管理職、従業員)を対象に行われた(調査結果の詳細は、以下のスライドショーをご覧ください)。
今回の調査は、企業が生成AIの試験運用を終えて組織基盤に統合しはじめる段階、いわば“ターニングポイント”で実施された。経営層の約3分2にあたる64%が、組織の再設計を見据えて生成AIの活用を始めていると回答している。
企業は自社のビジネスを生成AIに対応した形へと変革するなかで、「(効果への)確信」と「不安」の間で揺れる働き手の葛藤にうまく向き合う必要がある。1つのアプローチとして、生成AIが事務作業のような単調な仕事を減らし、従業員がやりがいを持てる仕事、たとえば専門性の向上や、管理職であればメンタリングやコーチングに充てる時間を増やせるというメリットを強調するやり方が考えられる。
生成AIが生産性の向上に有効なことはよく知られている。しかし、従業員は生成AIツールによって節約した分の時間を何に充てているのだろうか。
回答によると、節約された時間は「より多くの業務をこなす」(41%)、「新規の仕事に着手する」(39%)、「生成AIの利用法を探る実験をする」(38%)、「戦略的な仕事に取り組む」(38%)といったことに充てられている。生成AIを活用することで単に仕事の負荷が軽減されるだけでなく、より効果的に働けるようになっている。
経営層も従業員も、生成AIの真価を引き出すには使う側のトレーニングが重要であると認識している。現在のところ経営リーダーの念頭にある課題は主に次の3つだ。
同様に、従業員が懸念している主な課題もトレーニングに関することだった。
従業員のトレーニング実施状況については昨年の調査から進展は見られたものの、AIが自分の仕事に与える影響に関連してトレーニングを受けた人の割合は経営層が半数であるのに対し、管理職は30%、従業員は28%にとどまった。
ブラジル、インド、ナイジェリア、南アフリカ、中東諸国の回答者は成熟市場に比べ、生成AIについて一様に明るい見方をしている。それらグローバルサウスの国々では、生成AIのもたらす効果を信じる人の割合が高く不安を感じている人の割合は低いという結果になった。業務で生成AIを日常的に活用している人の割合も経営層、管理職、従業員のすべてでグローバルノースより高かった。
グローバルサウスの回答者は生成AIを使うことで節約した時間を利用して、ツールの利用法を探る実験をしたり、専門性の向上に励んだり、仕事の質を追求したりする傾向が高いこともわかった。さらに、生成AI関連のトレーニングをすでに受けた管理職と従業員の割合もグローバルノースより高かった。
グローバルサウスの前向きな姿勢には、人口に占める若年層の多さや楽観的な見方、そして経済的な勢いが反映されていると考えられる。
この調査は、生成AIの“もろ刃の剣”的性質を明らかにしている。慣れ親しんで使うほど、快適さと怖さの両方を実感するのである。生成AIは革命的なテクノロジーであるだけに、人々が相反した反応を示すのも不思議ではない。
しかしこうした人間の反応は、生成AIを柱としたトランスフォーメーションに取り組む組織にとっては課題になる。幸いなことにトランスフォーメーションの原則は革命的なものではなく、多くの企業がこれまでにも経験してきたものだ。スライドショーでは調査結果の詳細と、経営リーダーに向けた5つの提言を示している。
生成AI活用は「技術的な課題というよりも、マネジメントの課題である」ということは昨年も述べた。人間が生成AIを理解し、やりとりする道のりの複雑さを認識することで、経営リーダーは人間と機械という双方の働き手の強みと価値を最大化する形へと組織を再設計できるのである。