CMO, Managing Director & Partner
Paris
By Jessica Apotheker, Sylvain Duranton, Vladimir Lukic, Nicolas de Bellefonds, Sesh Iyer, Olivier Bouffault, and Romain de Laubier
1,400人以上の経営層を対象としたBCGの調査によると、生成AIは急速に企業のビジネスのあり方を変えている一方、経営リーダーの90%は、生成AIが流行を超えて実用的な段階に至るのを待っているか、限定的な実験を行うにとどまっている。
2023年はAI史における転換点となった。広く親しまれているオープンAIのチャットボット「ChatGPT」は、史上最も急速に成長したウェブプラットフォームの1つとなり、現在では毎月のアクセス数が15億回に達している。Bing Chat、Bard、その他の競合する生成AIツールもすぐに後へ続いた。
ほぼすべての経営層がAI・生成AIを2024年に優先すべきテクノロジーの上位3つに位置付けているにもかかわらず、経営リーダーの66%が自社のAI・生成AIに関する取り組みの進捗について満足していない、または不満を抱いている。そして、有効なやり方で従業員へのアップスキリングを実施できている企業はわずか6%である。経営リーダーは、生成AIがもたらすビジネスチャンスをつかむために、自社の体制をどのように整えればよいのだろうか。
この問いに答えるために、私たちは世界50市場14業界にわたり、1,400人以上の経営層を対象に調査を実施した。回答からは多くの洞察が得られた。
AIは最優先の経営課題に急浮上した。生成AIは新たなビジネスチャンスをもたらしており、経営リーダーたちは熱心に収益化を追求している。
投資を増やすことで成功確率は上がるが、ほとんどの企業の取り組みはAIの便益を完全に実現するにはまだ不十分だ。自社のAI・生成AIに関する取り組みの進捗に不満を表した経営層は、いくつかの課題を挙げている。人材とスキルの不足(62%)、投資の優先順位が不明確(47%)、責任あるAI戦略の欠如(42%)などである。
要するに、多くの企業がAIへの投資を増やす必要性を認識しながらも、実際の改革への着手には二の足を踏んでいる状況である。私たちが調査した経営層の3分の2は、AI・生成AIが単なる流行を超えて、実用的な段階に移行するまでに少なくとも2年はかかると考えているようだ。また71%は、小規模かつ限られた範囲での実験やパイロットプロジェクトに注力している。経営リーダーの約90%がこのいずれかに該当しており、「様子見している企業」と言える。
しかし、今は成り行きを見守っている場合ではない。「成功しつつある企業」は、生成AIが定着することを認識し、生産性の向上や売上の成長を実現する絶好の機会が目前にあることを理解している。
私たちの分析では、AIでの成功を目指して自社の体制を整えている企業は比較的少数であることがわかった。この結果は、経営者数人に実施した詳細なインタビューでも裏付けられている。一方、その他の企業は危険なほど後れを取っている。「成功しつつある企業」には、5つの特徴が見られた。
生産性と売上成長に投資している。AI・生成AIによって2024年にコスト削減を見込む企業の約半数は、10%以上のコスト削減を想定している。具体的に考えると、売上が100億ドルの企業にとっては10億ドルの資金が捻出されるということだ。
2024年にAI・生成AIに5,000万ドル以上を投資する計画のある企業は、同業他社と比較して同年にコスト削減を見込む可能性が1.3倍、10%以上のコスト削減を見込む可能性が1.5倍高くなっている。ただし、成功しつつある企業は捻出した資金をただ銀行に眠らせておくわけではない。その分を事業に再投資し、新たな収入源を生み出して、さらなる成長につなげている。すべての企業が、この再投資への積極的なアプローチを戦略計画における指針とするべきだ。
アップスキリングに組織的に取り組んでいる。リーディングカンパニーはAIの恩恵を得るために、従業員の各チームがAI・生成AIを最も効果的に使える状態にしたうえで、リスキリングの取り組みをスケールアップしている。ほとんどの経営リーダーが、生成AIは社内に新しい役割を生み出すという点に同意しており、今後3年間のうちに働き手の約半数が生成AIに関するアップスキリング・リスキリングが必要になると予想している。
成功しつつある企業は先行して必須テクノロジーを導入している。BCGが2023年に実施した調査によると、リーディングカンパニーには概して、AIに習熟したフルタイム従業員が他企業の3倍在籍している。今回の調査でも似たような結果が出た。2024年にAI・生成AIに5,000万ドル以上投資すると計画している企業の21%は、すでに従業員の4分の1以上に生成AI関連ツールのトレーニングを受けさせている(全企業では、この割合はわずか6%)。
事実、経営層のほとんどが、現状わずか1~10%の従業員しか生成AIツールのトレーニングを受けていないと回答した。トレーニングが必要なのは経営陣も同様だが、調査に回答した経営リーダーの59%が、自社の経営陣の生成AIに関する習熟度について自信がないと答えている。
生成AIの活用コストに気を付けている。生成AIへのアクセシビリティは急速に拡大しており、企業への導入は迅速に進むと期待できる。同時に、ツールの使用が広く浸透するにしたがって、関連コストも増加すると予想される。しかし、現時点でこの課題を見据えている経営リーダーは一握りだ。調査に回答した経営層のうち、AI・生成AIソリューションを選択する際の最たる懸念事項にコストを挙げたのはわずか19%だった。
このテクノロジーが急速に普及していることを考慮すると、生成AIが適切に実装されていない組織では、潜在的な運用コストが巨額になる。生成AIを独自にカスタマイズしたプロジェクトを大規模に展開していけば、関連コストは膨れ上がる一方である。後になって高額なコストを支払いたくないのであれば、経営陣は活用コストを前もって管理しておく必要がある。
戦略的パートナーシップを構築している。AIで先進している企業は、そのテクノロジー自体と、それによって可能になるソリューションが迅速に進展していることを理解している。AIソリューションを模索する際に、既存のパートナーシップを優先しようと考える経営層はわずか3%だった。成功しつつある企業は、ソフトウェアプロバイダーや生成AIスタートアップを含む複数の企業とのパートナーシップ(エコシステム)を積極的に構築し、最先端のテクノロジーにアクセスできる体制を整え、まずは短期的な価値を創出しようとしている。
責任あるAI(RAI)の原則を実装している。生成AIの適用が急速に進み、特にサイバーセキュリティのような分野において脅威が出現していることもあり、RAIの重要性が以前にも増して高まっている。企業はAIに関する取り組みのどの段階であっても、RAIの問題に先手を打つ必要がある。
BCGの調査によると、CEOがRAI戦略に参画している企業は、そうでない企業と比べて58%高くビジネス上の利益を実現している。2024年にAI・生成AIに5,000万ドル以上投資すると計画している企業のうち27%は、CEO直下でRAI戦略を推進している(全企業では、この割合は14%)。
つい最近まで、AIを実装できたのはAIの専門家やデータサイエンティスト、機械学習エンジニアだけだった。今ではどんな従業員も、試してみたいと思えば即座に利用できる。
キングフィッシャーのCEOであるティエリー・ガルニエは、自社が生成AIに適応した道のりをこう説明する。「当初、ChatGPTや類似の大規模言語モデルの利用を制限したところ、かなりの苦情がありました。しかし私たちは、従業員を信頼し、明確な原則を用意する必要があります。そこで、HRやITを含む経営機能横断で協力し、徐々に利用を解禁し、ルールを整備して、ベストプラクティスと危険性に関する必須トレーニングを提供しました。こうした原則を打ち立てることで、前に進めるようになったのです」
まるで魔神が瓶から放たれたように、生成AIは確実に力を発揮し、その影響は不可逆なものとなっている。2023年がAI民主化の年であったなら、2024年は生成AIの“魔法”をビジネスインパクトに変える年になる。私たちは、生成AIに秘められた能力を最大限に活用するため、3つの価値創造戦略を提案したい。
企業はこれらの領域でチャンスを追求することで、生産性を高め、効率性と有効性を向上させ、売上増を実現し、長期的な競争優位性を構築できる。
今回の調査結果の詳細は、以下のスライドショーでご覧いただけます。
Managing Director & Senior Partner; Europe, Middle East, South America, and Africa Chair, BCG X
Paris
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