生成AIの登場とともに爆発的に高まった AI に対する関心は、いかに施策を実行し、成果へとつなげるかに焦点が移りつつある。経営層が考えるAIの重要性は揺るぎなく、4分の3の経営層が2025年の戦略的優先事項の上位3つにAIを掲げている。
企業は2025年、 生成AIに対し前年以上の投資 をすると計画している。一方で、生成AIは直感的に使いやすく親しみやすいツールであるものの、それを職場に導入するためには、規律や継続的な取り組み、そして相応の労力が求められることも認識しつつある。
AI関連の取り組みから顕著な価値を創出したと回答した企業は全体の4分の1で、そのような企業は少数のAI施策に注力することで成果を上げている。先進企業は、施策の規模を迅速に拡大させ、業務プロセスを変革し、チーム単位でアップスキリングを実施して、業務・財務両面の成果を体系的に測定している。
ボストン コンサルティング グループ(BCG)は昨年に引き続き、世界の経営層を対象にした調査「BCG AI Radar」を実施し、ビジネスリーダーのAIに対する考え方を分析した。今回の調査では1,800人以上の経営層が、AI施策における成果や課題について見解を示した。
詳細な調査結果と考察は、以下のスライドショーで紹介する。特に、AIで実現したい目標と実際の成果との間にギャップが生じていることに焦点を当てた内容となっている。調査から、主に次のような洞察が得られた。
多くの企業は目標を著しく低い水準にとどめており、 生産性向上を重視した小規模な取り組み を優先している。一方、先進企業はAIへの投資の80%以上を、 基幹部門・機能の再構築や顧客に提供する新たな価値の創出 に充てている。
ほとんどの企業は必要以上に多くのAI施策に手を広げすぎて、投資を分散させてしまっている。一方、先進的な企業は量より質を重視し、平均3.5件のユースケースに注力している(他の企業は平均6.1件)。こうした先進企業は、自社のAI施策によって他社の2.1倍高いROI(投資利益率)を生み出せると予想している。
AIに関するトレーニングを受けた従業員は、まだ少数にとどまっている。AI活用に向けてトレーニングを受けた従業員が4分の1以上に達している企業は、3社に1社に満たない。 1年前よりは改善している ものの、雇用に影響を及ぼし得るテクノロジーに従業員が安心して向き合える水準には、まだほど遠い。
多くの企業が、AI施策に関連する財務KPIのモニタリングをしていない。
目標と成果のギャップを埋めるために
AIへの取り組みを成功させるには、技術的な課題に対処するだけでなく、組織や人に関する変革も求められる。実際のところ、ワークフローの再構築や従業員のアップスキリング、組織変革の推進といった“ソフト面”の課題解決こそが、思いのほか難しい。
成果を上げている企業は、10:20:70の法則に従っている。取り組みのリソースのうち、10%をアルゴリズムに、20%をデータとテクノロジーに、そして70%を人材、業務プロセス、カルチャーの変革に充てている。この法則は、 AIエージェント の導入にも当てはまる。自律的に観察し、計画し、行動できる このAIシステムの活用を検討している 企業は、全体の3分の2にのぼる。企業はAIエージェントを、人間の仕事を補完し、より良いものへ高めていける形で、業務プロセスに組み込むことが求められる。
人間の働き手が重要な役割を担うことは変わらない。企業の3分の2(68%)は、従業員数を現状のまま維持する見込みだ。AIの潜在力を発揮させるためには、従業員に無力感や職を失う恐れを感じさせないようにすることが不可欠である。
重要なのは、とにかく集中的に取り組むこと。CEOは、AIの可能性を引き出すために、目的意識をもって実践的なアプローチをとる必要がある。
- AIの可能性に対する固定観念を取り払う。働き方を見直し、組織モデルやオペレーティングモデルを再検討する。
- AI施策を的確に厳選し、優先順位をつける。戦略的に価値のある施策に焦点を絞りつつ、現場発の試行的な取り組みも促す。
- AIを企業の目標達成に役立てる。AIをトランスフォーメーションの一環として位置づけ、目指す成果を明確に設定し、価値創出を精緻に追跡する。
- 組織とカルチャーの変革をリードする。ワークフローを再構築し、チーム単位でアップスキリングを実施して、AIによるイノベーションを生み出すカルチャーを醸成する。
- 次の展開に備える。AIがもたらす次なる価値創出のチャンスと、それに伴うリスクを見極める。
2025年初頭、AIは可能性と現実のはざまに位置している。投資は拡大し、価値実現への期待も高まっているが、同時に取り組むべき課題があることも明らかになっている。AIの活用を順調に進めるためには、規律をもって施策を実行すること、価値創出に明確に集中すること、そして従業員が変化に適応できるようにすることが不可欠だ。